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絵本がなければ電話帳でもいい!?――親子の楽しさこそ愛情そのもの

悠々です。もはや子育て期は“懐かしい”と感じる世代になってしまいました。私は、聖教新聞の教育・子育て欄の担当記者を15年以上経験しました。ちょうどその期間が、まさに私自身の子育て期と重なっていたのです。

ここでは、そんな子育て期を振り返りながら、いま思うことを時代の変化も交えつつ、つづらせてもらいます。ビビッドなエピソードは、現在進行形で書いてくれている人たちに譲るとして、私は子育て期間に自分が読んだ本を軸にして書いてみたいと思います。

絵本ほど、多様性を体現した本はないと思います。幼児向けには仕掛け絵本もあり、本としての形、大きさ、デザインなど、さまざまなパターンが存在します。つまり、本棚に収めるのがとても大変だということでもあります。
 
ご家庭でも収納が悩みの種という方がいらっしゃるでしょう。その上、乳幼児期に絵本を丁寧に扱うことを教えるのはなかなか難しいことです。子どもは楽しさのあまり、乱暴に扱うこともあり、角がつぶれたり、なめたり、かじったりもしました。ページが破けたことなど珍しいことではありません。
 
お気に入りの絵本は、読む頻度も高く、さらに傷みやすくなります。読み聞かせのときは、何度も同じものを読むのですから、なおさらです。でも、その一冊に思い出が宿ります。絵本がもつ凸凹感こそ、それぞれの個性。一冊への愛着が強くなるのもいいところです。
 
お気に入りの絵本にも、その時々で流行がありましたが、エリック・カールの『はらぺこあおむし』(偕成社)は、かなり早い時期から人気がありました。

そんな渦中、私はエリック・カールさんに取材する機会に恵まれました。何社も順番に取材を受けておられ、お疲れだったと思いますが、柔和な笑顔がとても印象的。風貌も含め、お話の内容も、ほんとうに優しいお方でした。
 
インタビューの要点をお伝えすると、まずは子どもの主体性を大事にすること。
 
「絵本は、子どもが好奇心をもって、おもしろいと思って、ページをめくらなければならないのであって、一ページをめくって子どもが本を閉じてしまったら、それはそれで放っておかなくてはいけません。大事なのは、いつもそばに絵本を置いてあげることです」
 
絵本作家としては、子どもが一ページをめくって本を閉じたら、さぞ心が痛いのではないか、と心配しながらも、次の言葉には“作家としての矜持”を感じました。
 
「子どもに“おしつけ”はいけないと思っています。その年代の子どもは、ものすごくいろんなものを吸収するし、好奇心にあふれています。例えればスポンジみたいなものです。だから私は、そのスポンジに無理に水を吸わせずに、できるだけ『示唆する』『ヒントを与える』ことにとどめておきます」
 
大人が勘違いしやすいことも、明快に語ってくれました。
 
「(読み聞かせは)読むという知的な作業であるより、むしろ膝の上にすわらせて読んであげるというスキンシップが意味をもつのです」
 
そして、にこやかな表情でおっしゃいました。
 
「私はよく、冗談のように言うのですが、本がなかったら、電話帳でもいいから子どもを膝の上に乗せて読んであげてください。とにかく、読んであげるということが大事なんです。なぜなら、電話帳を読んでいたとしても、その時間はあなたのために私は時間を使っているんだ、あなただけのために、あなたのことを愛しているからこうしているんだ、ということを実体験させることができるわけです。それが大切なんです」
 
この“電話帳”の話で思い出すことがあります。電車好きだった長男に、私は家の近くを走る私鉄の特急電車をモチーフにした簡単な歌を作りました。そして、自転車に子どもを乗せて走るとき、よく歌いました。幸い、子どもも気に入ってくれ、自転車に乗るたびにリクエストされたものです。
 
歌の最後は、特急電車の名前を歌い上げるのですが、子どもが大好きだったのは、歌が終わってからの部分。楽器もなく口だけで歌うので、最後に「じゃか じゃか じゃん!」と締めくくります。なぜかここが気に入ったようなのです。この部分になると、けたけたと大笑いします。
 
「一生懸命考えた歌詞じゃなく、受けたのは、ここかよ~」
 
微妙に残念な気持ちなのですが、子どもが気に入ることって、子ども自身が楽しい気分になるところなんですよね。その楽しさこそ愛情そのもの。“意味”よりも“音の楽しさ”はストレートに届きます。
 
絵本作家が、絵本にこだわらず“電話帳でもいい”と言っているのだから、これでいいんだよな、といつも言い聞かせながら歌っていました(笑)。

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