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【インタビュー取材の舞台裏】一人一人の子どものための教育、社会であるために

聖教新聞に掲載された記事の概要を振り返りつつ、取材の舞台裏を紹介します。今回は、「子どもの発達障害」をテーマにお話を伺った坂井聡さんの記事(2023年2月11日掲載)です。坂井さんは香川大学教育学部教授であり、同大学教育学部付属坂出小学校校長を経て、2023年4月から同付属特別支援学校校長を務めています。


坂井聡氏

社会課題と向き合い、研究・実践を続ける学者たち

文部科学省の各種委員会の委員を歴任し、現在は日本自閉症スペクトラム学会常任理事も務める坂井さん。そのキャリアのスタートは、香川県立高松養護学校(当時)の教諭でした。一貫して、特別支援教育の現場に携わってきた人です。記事では、日本社会の〝現在地〟をこのように語っていました。

日本社会の〝現在地〟

私が養護学校(現・特別支援学校)の教員を始めた頃から40年がたって、「あなたはあなたでいい『はず』」と言われる社会にはなったと思います。そして、これからは「あなたはあなたでいい『よね!』」という未来に向かっていく。そのための教育であり、学校でありたいです。

「(これまでの)社会もまんざら悪くないよ」という人もいるかもしれません。悪くないよっていうのは、受け入れられている場面ではそうなんですよ。でも、(マジョリティ―の側から)排除されている家庭とか、悩んで、一生懸命(お子さんが)訓練したりする家庭があるという事実を社会は知っているんですかと言いたい。同じように生まれてきて、なんでその子たちだけが、社会に適用するための訓練をしなければならないのか。ちゃんと配慮する社会に変わっていくことを望みますね。

※坂井教授のインタビュー全文は、下記の書籍にも所収されています▼

その社会の実現のために、坂井さんは、さまざまな研究・実践をしていますが、その歩みの中で数多くの仲間に恵まれたといいます。
東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍シニアリサーチフェローも、その一人です。中邑さんは、障害者によるICT(情報通信技術)を活用した学習や、不登校などの社会課題に対してそれを解決するための研究・実践を重ね、子どもの可能性を発信し続けています。

中邑賢龍氏

実は、中邑シニアリサーチフェローには、2022年夏、坂井さんよりも前に取材・掲載をさせてもらいました。そして2022年の年末に中邑さんがコーディネーターを務めたカンファレンスに、坂井さんが講師として参加しており、記者もそれを機に坂井さんを知って、取材を申し込んだ経緯がありました。

青年時代の思い出

坂井さんのインタビュー取材では、中邑さんとの関係についても話が及びました。ここからが「取材の舞台裏」。記者が「〝社会や教育こそが、一人一人の子どものために変わらねばならない〟と考えるようになった原体験、きっかけといったものはあるのでしょうか」と質問した際、坂井さんは、こう教えてくれました。

私が子どもの頃、隣のクラスの子が夏休み明けに突然、いなくなったんですよ。学校の先生は「あの子は障害があるから養護学校に行きました」と説明した。そのことで僕は、〝障害のある子は養護学校に行くのが当たり前なんだ〟と思ったわけよ。それで、その子たちのために何かできることはないだろうかと思って、僕は小・中学、高校、大学で特別支援教育を学びました。

ところが、いざ特別支援学校の高等部で教え始めたら、「俺はこの学校に来たくなかったんや」と言う高校生がいた。「来たくなかったのに、なんで来たんよ?」と聞いたら、「ここしか来たらあかんって言われたんや 」と答えたんですよね。
そこで〝ちょっと待てよ〟と考え始めた。〝俺が進学する時には、いくつかの学校を選べたのに、知的障害のある子は選べないのか〟と思い知らされ、そこから〝俺は勝手に、養護学校を、障害のある子が行くべきところだと思ってなかったか?〟と自問し始めました。

そうしたことを考えていた時に、中邑賢龍さんに出会ったんですね。中邑さんは香川大学の先生で、僕は付属の特別支援学校の教員をしていた関係で、中邑さんが持ってきたICT機器などを、私が現場で使う実証実験をやるようになった。

中邑さんには、ICT機器にとどまらず、いろいろなことを教えてもらいました。私が、特別支援学校の教室で「お金の授業」をしていた時のことです。私が「家のお金はお母さんの財布から勝手に持ち出したらダメよー」「落ちてるお金っていうのもね、勝手につこたらいかんよ」などと話をしていたのですが、ちょうどその時に中邑さんが廊下を通ったわけ。

それで、中邑さんが笑いながら、教室の後ろから入ってきたんです。「あら、○○君。ここに500円玉が落ちてたわ。この500円で一緒にゲームセンターへ行こう 」って言うて。その障害のある子が「はい!」と言ってついていったんですよ。僕は「えー!」言うてね(笑)。

どういうことかというと、〝子どもたちにきちっと身に付く学びを、あなたはちゃんと教えてんのか〟という中邑さんからの問いかけやね。今教えたとこやのに、すぐついていくっていうようなことになってるわけで、なんやそれはっていう話です。
そういった経験から、教えるとはどういうことなんだろうと考え始めてね。身に付けさせるっていうけど、身に付けてもらうためにはどうしたらいいんだろうとか。
例えば、一定の金額を決めて、使うのをやめさすのは無理だけど、定額をチャージしたICカードをポケットに入れてもらって、〝これで買えるものを買いなさい〟というようにしたらいいんじゃないかとかね。
子どもを変えようとするのではなくて、その子が買い物をできる環境を整えることを考えるようになっていきました。

中邑さんとの間では、そんな出来事はしょっちゅうなんよ。「またいつでも来てくださいね 」とかって言ったら、中邑さん、いつでも来るしね。〝いや、いつでもって言っても社交辞令なんやけど〟とか思いながら(笑)。そういう関係の中で、私も従来の教育について、変わっていくべきところを、考え続けるようになりました。

常に気さくな語り口で、親しみやすい印象を与える坂井さんでしたが、青年時代の記憶を語る表情は、いっそう生き生きと、輝いて見えました。出会ってから約30年、立場や場所が変わっても、つながり、研究・実践を続けていることに感銘を受けました。
また、坂井さんは、記者の等身大の子育ての悩みにも、具体的なアドバイスをしてくれました。こちらは、掲載記事から、再度ご紹介します。

質問とアドバイス

その1:「かんしゃく」について

――6歳の娘の「かんしゃく」についてです。組み立て式の人形で遊んでいて、いつもは立つはずの人形が立たないことがありました。そうしたら、「なんで立たないんだ!」と言って娘が暴れ出したんです。その後も似たようなことがいっぱいあるのですが、そんな時は「あ! そういえば今、面白いテレビやってるよ」と言って、注意をそらそうとしています。どう思われますか。

なるほど、僕だったら例えば、紙粘土で台座を作っておいて、その台の上に人形を立たせたら、必ず立てるような環境をつくっておきますね。
記者さんの試みも、子どもに通用する部分はあるんです。例えば、子どもの目の前に、バッと画用紙なんかをかざして注意をそらす。その間におもちゃ自体を隠してしまうというようなことは、従来、特別支援教育の分野でも一つの方法として知られています。
ただ、今のご質問の場合、子どもにおもちゃが見えている状態で「テレビもやってるよ」と言うのは、本人が納得するまでに少し時間がかかる可能性があります。むしろ、人形が転ばないようにすることを考えて、「ほら、この前一緒に作った、こけない台があるやん。この台に乗せたらこけんよー」とか言うと、かんしゃくの原因を取り除けるわけです。

そして、娘さんがもうちょっと大きくなってきて、「お父さん、私いつもイライラすんねんけど、そういう時どうしたらええの?」と聞いてきたら、「気分転換っていうてな」と言って、「あなたの場合は、おもちゃを見えんようにして、テレビつけたり、好きな音楽かけたりしたら、うれしい気持ちになるかもよ」と伝えてあげてみてほしい。
自分の感情が分かるようになって、言語にできるようになったら、伝えればいいのではないでしょうか。

その2:親と離れると不安に

――6歳の息子がいます。私が出張に出て、夜に家にいないと、情緒が不安定で暴れ出します。「明日の〇時には帰ってくるからね」「どこどこに行ってくるよ」と細かく説明してから出発するのですが、少しでも本人が安定する方法は、あるでしょうか。

お父さんが出張に行くと、かんしゃくを起こすというのは、〝居るべき人が居ない〟という思いが引き金になっているかもしれないし、〝どこに行ったのか分からなくなっちゃった〟ということもあり得るんですよね。

僕がお父さん、お母さん方にお伝えするのは、ホワイトボードなどに「家の絵」と「会社の絵」と「保育園(や幼稚園)の絵」を書いておいて、「〇〇ちゃんは今日、保育園に行きます。お父さんは会社に行きます。お母さんは家にいます」と言って、居場所の確認ボードを見せるということですね。
また、お父さんが出張する場合は、カレンダーに印を付けて、「この日とこの日とこの日に出張に行って、この日にお父さん帰ってきます」と見せる。

子どもはね、自分の置かれた状況を分かりたいと思っています。それで、大人は言葉で伝えるわけやけど、言葉で分かったら、かんしゃくは起こさない。お父さんは一生懸命伝えたつもりになっているけれど、子どもは理解できておらず、「どうしてお父さんは帰ってこないの!」と、家で暴れる事態になる。
そのギャップを埋めないといけないですよね。やはり、言葉って消えてなくなっちゃうので、絵やカレンダーといった視覚的な情報を見せることで、子どもの安心が生まれやすくなると思います。

その3:進学に際して

――息子は、この4月から小学生ですが、人とのかかわりが苦手で、幼稚園へは行き渋りがあり、たまに行っても、親が一緒でないと教室に入れません。大きな音や声が苦手といった特徴もあります。就学予定の小学校にも、あらかじめ状況を伝えようと思うのですが、どのように伝えるのがよいでしょうか。

自治体では、幼稚園などでの成長・発達の様子や必要な支援について記入する「就学支援シート」を用意し、子どもの小学校生活や学習内容を検討する際に活用しています。また、こうした書式がなくても、お子さんを知ってもらうように、書面をつくるなどすると円滑にコミュニケーションが図れると思います。

その際に僕が大切だと思うのは、親御さんの見た子どもの姿に加えて、「子どもの言葉で書く」ということ。「これとこれは食べるのが嫌いだから、残し方を教えてください」とか、「大きな音が嫌いです」とかさ。それこそ、記者さんは聞くのが仕事だから、お子さんを取材するつもりで聞いてあげて、どうしたら楽しいかを見つけてみたらええんやないかな。

その4:パートナーとのコミュニケーション

――頭では分かっていても、子育てには気力と体力が必要なことを感じています。妻とも協力しておこなっているつもりですが、それでも、お母さんの大変さは甚大だと思います。パートナーと励まし合いながら子育てしていくための工夫など、ありますか。

夫婦の働き方やお父さんの子育てへのかかわり方も、以前に比べて変わってきましたけど、まだまだ、お母さんの苦労は多いと思います。
だからね、子どもに寄り添えたとか、寛容になれたとか、何か一つでいいからできた日には、カレンダーにシールを1個貼る。それが30枚たまったら、パートナーへ指輪をプレゼントするとか、どうでしょう。そしたら、その指輪を見た時に〝子どものおかげで買えた指輪やな〟って思えるやん。

何が言いたいかというと、子育てってやっぱり、ご褒美がいると思うんです。自分の子どものことになったら、多くの親御さんが、ものすごく一生懸命に取り組まれている。それなのに、僕のところに相談に来られた親御さんに「自分にご褒美ありますか?」って聞いたら、みんな「無い」って言う。
自分で自分に、またパートナーに、ぜひ、ご褒美をあげてください。

2023年の年末にも、もしかしたら、中邑賢龍さんと共に、カンファレンスに登場されるかもしれません。その際には、ぜひ、カンファレンスのことも取材したいと思う今日この頃です。(みやもん、はっしー)

聖教新聞の記者たちが、公式note開設の思いを語った音声配信。〝ながら聞き〟でお楽しみください ↓

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