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『モモ』と“時間の感じ方”。思えば、忙しいときに限って大泣きされた!

悠々です。もはや子育て期は“懐かしい”と感じる世代になってしまいました。私は、聖教新聞の教育・子育て欄の担当記者を15年以上経験しました。ちょうどその期間が、まさに私自身の子育て期と重なっていたのです。ここでは、そんな子育て期を振り返りながら、いま思うことを時代の変化も交えつつ、つづらせてもらいます。ビビッドなエピソードは、現在進行形で書いてくれている、すなっち、はっしーたちに譲るとして、私は子育て期間に自分が読んだ本を軸にして書いてみたいと思います。

神話的時間」からの“時間”つながりで、ミヒャエル・エンデの『モモ』(岩波少年文庫)について書いてみます。世界的に支持された作品ですが、日本での人気は高く、発行部数は作者・エンデの母国ドイツに次ぐ数字だそうです。いまも多くのファンがいると思いますが、児童文学の名作といえますね。子どもが幼児期の頃、手にとった一冊です。

岩波少年文庫になってからは表紙から副題がなくなりましたが、単行本には「時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」と記されていました(文庫版ではP7のタイトル下に表記)。まさにテーマは「時間」です。
 
物語は、忙しいと感じながら生きている現代人を象徴的に描き、効率的に生活することの功罪を浮き彫りにしていきます。やがて登場人物が心の豊かさを失っていく中で、主人公のモモをはじめとした人々が、人生において何が大事なことなのかを考えさせてくれるのです。次の言葉を印象深く覚えています。
 

「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ」

文庫版・P236

経験的にも、人は焦れば焦るほど、時間に追われ、むしろ時間は無為に過ぎていきます。落ち着いてとか、平常心でとか、頭では分かっていても、うまくいかないことが多いものです。だからこそ、人から決められた締め切り時間や、間に合わせなければならない時間、自分に与えられた持ち時間なども、一度自分で組み立て直し、自分の感覚で時間を捉え直すと、少しは心に余裕が生まれると思います。
 
私たちが焦っているときは、だいたい誰かとの約束や、社会との接点で時間が決められていることが多いですよね。そこに合わせなければならない必要が生じているときに、焦りにつながるのです。
 
また、これからやるべきことがたくさん残っていて、何から手をつければいいのか戸惑っているときも同じです。軽いパニックに陥り、ずどんと胸にのしかかり、重たいものを背負った感じです。それは、やるべきことを目の前に並べ、何にも手が付かない状態に似ています。
 
例えれば、私はやるべきことを、横にではなくなるべく縦に並べる習慣にしています。残っている仕事量の多さを、いったん目に入らないようにして、取り組む順番を決め、目の前のことを一つ一つ片付けていけるような体勢にしているのです。
 
いつも、そんなにきれいに片付く訳ではありませんが、心の負担感は思った以上に軽くなりますよ。10のことをやらねばならないときに、10の全てを精神的に背負ったままで取り組んでいる状態であるのと、1個1個を順に取り出し、その間は1個分しか心の負担にはならない状態であるのとの違いです。長い年月でみると、この感覚を身につけると、時間との付き合い方が大きく変わってくると思います。

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いま思えば、子どもは時間がないとき、親が忙しいときに限って、よく泣いたように感じます。焦る親の気持ちが伝わるんですかね。幼児期は大泣きすることも多く、特に何が原因か分からないときが、とても難儀しました。親には分かりにくい子ども自身の疲れや、周囲の雰囲気なども影響しているのでしょう。
 
忘れもしない思い出があります。夏の観光シーズンに、子どもを抱いた状態でロープウェイのゴンドラに乗ったときのことです。ゴンドラが動き始めた途端、泣き出しました。どんなにあやしても、結局、最後まで泣き続けたのです。その時間の本当に長かったこと……。
 
同乗の方々も、気にしてくださる方もいれば、顔を合わせないようにしてくださる方もいて、親としてはただただ小さくなって、子どもの体を揺すり続けていました。ゴンドラが終着駅に着く直前。止まる前のわずかの揺れを感じたとき、子どもが突然「ちゅいた~」と言ったのです。ゴンドラの中が、一瞬の静寂の後、笑い声でいっぱいになりました。夫婦して、さらに小さくなって、みなさんに頭を下げ、謝ってからゴンドラを降りました。
 
この出来事の後で知った話なのですが、ドイツの家庭教育というような内容の本を読んでいたとき、「おばあちゃんの知恵」みたいな話題で、面白い話が紹介されていました。大泣きしている子どもの耳元で、わざと、聞き取れないような小さな声でささやくと、子どもが泣き止むというのです。残念ながら出典の本を忘れてしまったのですが、「まさか~」と思いながらも試してみました。すると、ほんとに泣き止んだのです。
 
話しかける言葉の内容は何でもいいようです。私は、言葉で耳をくすぐるような感じで、「こしょこしょこしょ~」とか、そんな言葉を耳元でささやいたと記憶しています。小声で、がポイントです。“パパは何を言ってるんだろう”と泣いている状態から別方向に気を引き、子どもの気持ちを切り替えることがカギのようです。
 
こんな仕掛けを楽しみながら試してみてください。泣き止めば、もうけもん!と思って(笑)。

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