“時の重み”を感じることになった味噌造りと、土井善晴さんの『お味噌知る。』
子どもと一緒に何かに取り組むことは、親も一緒に楽しみながら、親子が同じ方向を向けるのが素晴らしいと思っています。例えば、小さな植木鉢に種を植え、芽が出て葉が開き、すくすくと育っていく様子を観察できることなど、その典型といえるのではないでしょうか。
わが家でも、親子でいろんなことにチャレンジしましたが、その一つが自家製味噌造りでした。私も妻も、それぞれの家庭で味噌造りをした経験があったわけではなく、まったくの初心者。昨今は手作り発酵食がブームといわれているので、情報も豊富です。ネットで調べれば、たくさんのレシピが詳細な画像付きで出てきます。
私たちは、最初は新聞のコラムで味噌造りの記事を読み、興味を持ちました。ほかにも何人かの味噌造りのレシピを調べ、人によって微妙なところに違いがあったので、わが家はこれでいこうという方針を決定。それからは説明通りに材料を買いそろえ、初めての料理を作るような気分でやってみた、という感じでした。
味噌の材料は、大豆と麹と塩の3つです。それが発酵によって、あのおいしさを生み出すのです。工程の中で、大豆をゆでて、すりつぶした後に、麹と塩を混ぜ、空気を抜くために“味噌玉”を作ります。
この“味噌玉”を作るときは、子どもたちの出番です。楽しく参加できると思います。前日に吸水などの準備をするので、つごう2日間かけて仕込みさえすれば、あとは“時間”が味噌を生み出してくれます。
均等に作るために天地返しをする場合もありますし、お住まいの環境の違いなどで、カビ対策を考えないといけないこともありますが、基本的には、あとは楽しみに待つだけです。
でも、子育ての渦中に味噌造りをするには、この待つ時間を有効に活用することが大事なんだと思います。ただ放っておくのではなく、どうなっているか、“気にかけながら待つ”感覚です。
仕込んで待つことの楽しさを、子どもにも存分に味わってもらいましょう。それには、親の想像力や声のかけ方の工夫も大切になってきます。
「手前味噌」という「自分で自分のことをほめる」という意味の言葉に、味噌が使われているのも象徴的です。まさに、自分で作ったものを自慢したい気分になるのです。それは、子どもも同じ気分を味わえるということでもあります。出来栄えは、それぞれの家の個性も出てきて、味も微妙に違ってくるものです。
自家製味噌で味噌汁を作れば、おいしく思うのは当たり前だと思います。どんな具を入れても、自分たちで造った味噌の力で、わが家ではすべてがおいしい味噌汁になりました。そういうものが一つあるだけで、その場、その日の食事を作るだけの食卓とは違って、“時の重み”みたいなものが加わる感じです。
一般的には1~2月に仕込むのがベストといわれますが、3~5月に仕込むことを推奨する人もいて、春に仕込んだものはすっきりとした仕上がりになるようです。まだ間に合います(笑)。興味を持たれた方は、ぜひチャレンジしてみてください。
最近、土井善晴さんと土井光さんの『お味噌知る。』(世界文化社)という本を読みました。そこには「味噌は生き物です。穀物を分解する目に見えない菌の活(はたら)きで作られます」(P2)とした上で、厳しくもシンプルな自然の摂理がつづられています。
そして、私も初めて知ったことがありました。
読んだ後、何だか、そんなすごい営みの輪の中に、自分も連なることができている不思議さに包まれました。