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時々立ち止まって確認するのは、自分の心が付いてきているか

悠々です。もはや子育て期は“懐かしい”と感じる世代になってしまいました。私は、聖教新聞の教育・子育て欄の担当記者を15年以上経験しました。ちょうどその期間が、まさに私自身の子育て期と重なっていたのです。

ここでは、そんな子育て期を振り返りながら、いま思うことを時代の変化も交えつつ、つづらせてもらいます。ビビッドなエピソードは、現在進行形で書いてくれている人たちに譲るとして、私は子育て期間に自分が読んだ本を軸にして書いてみたいと思います。

 ちょっとお休みしていました。その間、実家で1人暮らしだった父が亡くなったのです。葬儀を終え、今はさまざまな後片付けに忙しくしています。
 
私とヘルパーさんで、父の介護生活を支えていました。車椅子と杖を頼りにして、半身麻痺ではありながらも、父は元気に暮らしていたのです。しかし、デイサービスの迎えに来た方が、倒れていることを発見してくれ、すぐに救急搬送を手配。一緒に救急車に同乗した私は、車内で搬送先の病院が決まるまで、小一時間待たされましたが、最近はこれが常態化していると救急隊の方も嘆いておられました。
 
病院に着いて検査の結果、即入院が決まりました。急性の肺炎との診断で人工呼吸器を付けられ、ICU病棟へ。入院2日目の深夜、病院から呼び出しがあり、日付が変わると間もなく、亡くなったのです。最期はとても穏やかな表情で、静かに息を引き取りました。文字通り、“息を引き取る”という言葉が相応しいなあと感じる中、緩やかに呼吸の頻度が少なくなり、家族に看取られました。
 
介護中、父はいつも「ありがとうね」と言葉をかけてくれました。この一言が、忙しい日常の中で介護にあたる“しんどさ”を、どれだけ和らげてくれたことでしょうか。もし、そこで言葉を荒げてぶつかり合っていたとしたら、長い介護生活を続けられた自信はありませんでした。
 
自分が父の介護をし始める前のことですが、私は聖教新聞に介護のページを作りたいと提案しました。そのときも、読者の声が後押ししてくれました。「これからの時代、子育てと同じくらい、介護をする人が増えていきます。だから子育てのページと同じくらい、介護のページがあってもいいと思います」という趣旨の手紙をいただいたのです。
 
その後、介護のページを新設し、紙面制作にあたりながら感じたことがあります。それは、介護と子育ては、その課題や心がけたい点などが似ているということでした。役に立つハウツー的なアドバイスもありがたいのですが、それ以上に、不安でいっぱいな気持ちを安心させてもらったり、苦しいのは自分だけじゃないんだ、と気分転換できたりすることの大切さが共通しているのです。

日々の介護では、やるべきことを整理し、ルーティン化していくことも多いと思います。私もそうすることで抜け、漏れがなくなりました。でも、そうなるとどうしても一つ一つが“作業”になってしまい、マンネリ感が逆に自分を苦しめました。何かモヤモヤしたものが消えないのです。
 
それで、小さなことですが、同じ区内にある実家に向かう自転車のルートを、たった30分ほどの道のりですが、毎回少しずつ変えてみることにしたのです。そんなわずかな工夫が、自分の中に生まれるマンネリ感を打破し、道々の変化や発見を楽しむことにつながりました。
 
それで気分が晴れやかになるのですから、本当に不思議なものです。こちらの心一つで、同じ現実であっても、見える景色が全く変わってくることを痛感しました。この体験は、その後の生活にも大いに役立っています。
 
以前、星野道夫さんの『旅をする木』(文春文庫)という本を読んだとき、こんなエピソードが紹介されていました。星野さん自身の体験ではなく、何かで読んだ話として紹介されていました。それは、アンデス山脈へ考古学の発掘調査に出かけた探険隊のお話です。

「大きなキャラバンを組んで南アメリカの山岳地帯を旅していると、ある日、荷物を担いでいたシェルパの人びとがストライキを起こします。どうしてもその場所から動こうとしないのです。困り果てた調査隊は、給料を上げるから早く出発してくれとシェルパに頼みました」

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それでも動こうとしない彼らに、現地の言葉を話せる隊員が、一体どうしたのかと、シェルパの代表に尋ねたというのです。すると、予想外の答えが返ってきました。
 

「“私たちはここまで速く歩き過ぎてしまい、心を置き去りにして来てしまった。心がこの場所に追いつくまで、私たちはしばらくここで待っているのです”」

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これを読んで思ったのは、私たちも忙しさを理由にして、家族や友人に対して“心ここにあらず”という振る舞いをしていないか、ということでした。以来、日々の生活の中で、自分の心が行動に付いてきているか、時々、立ち止まって考えるようにしてきました。
 
介護も子育ても、こうした“悩み”と“気づき”の繰り返しですね。でも、それでいいのだと、今は思っています。


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